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楯野川がもっとわかる虎の巻

第六巻は酒造り その2「麹と酒母」についてご紹介いたします。今巻は、特に専門用語が多くなっておりますが、市販で販売されている日本酒に関する書籍などを参照いただくと、より理解が高まります。

第六巻 酒造り その2「麹と酒母」

麹について

麹について

麹(米麹)は、蒸米にカビの一種である、麹菌を振りかけて繁殖させたものです。麹造りは日本酒を造る上で、味わいを決定づける重要な工程です。日本酒は米が原料ですが、米をいきなりアルコールにすることは出来ません。米のデンプンをブドウ糖に変える必要があります。これを「糖化」と言います。製麹の目的は大きく3つありますが、酵素の供給が麹の最大の役割になります。

  • 蒸米の溶解・糖化を促進する酵素の供給
  • 酵母に栄養素(ビタミン類、アミノ酸等)の供給
  • 香味成分の供給

麹造りの流れや特にこだわっている点について、蔵人にインタビューしました。

Q1: 蒸米を麹にする際、まず最初にすることは何ですか?

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A1: 原料処理の冷却が終え、外硬内軟に仕上がった蒸米に種麹(麹菌)を振りかけます。これを種切と言います。床(とこ)の上に蒸米を薄く広げ、種麹を振ります。一度種切をしてから胞子が蒸米に降りるまで待ち、床揉みで蒸米を混ぜてから再び蒸米を広げて二度目の種切をする事により、種麹の胞子が万遍なく蒸米に行き渡るようにします。種切が終わると蒸米を饅頭状にまとめて包み上げ、密閉床の中で一昼夜寝かせます。

Q2: 麹造り(盛り、仲仕事・仕舞仕事、出麹)で、工夫していることは何ですか?

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A2: 麹造りの各パートに分けて説明していきたいと思います。

盛り: 種切から一昼夜経った麹は饅頭状に固まっています。表面にはうっすら白く麹菌が生え始めています。これをバラバラに砕いて麹箱に盛っていきます。盛る際に麹箱の中に仕切り板を入れて麹に厚みを持たせた状態にします。厚みがあることで品温の上昇がスムーズになり、水分が発散し過ぎるのを防ぎます。

仲仕事・仕舞仕事: 麹箱に盛られてから麹の温度が上がって、最初の手入れが仲仕事になります。よく混ぜて品温の高いところ低いところのバラツキを無くし、麹に酸素を供給します。この時、麹箱の仕切り板を動かして、麹の厚みが少し薄くなります。仲仕事から数時間で麹の品温が40℃を超えはじめます。このタイミングで仕舞仕事になります。手入れ時によく混ぜて品温のバラツキを無くすと共に、麹菌が繁殖するにあたって出た蒸米中の水分を空気中に発散させます。蒸米の外側に殆ど水分が無いので、麹菌は蒸米の中心に存在する水分めがけて菌糸を伸ばします。そうして蒸米に菌糸が深く突き刺さった麹を「突き破精麹」と言います。

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出麹: 40℃以上の品温を12時間ほど保った後、麹は出来上がります。酒母麹や添麹は経過時間を長めに、仲麹や留麹は短めにして麹室から出されて行きます。出来上がった麹を、麹室から枯らし場に移動することを出麹と言います。枯らし場に麹を広げ、麹菌の繁殖を止めます。翌日の仕込みに使われるまで、枯らし場で過ごします。

酒母について

酒母は蒸米、麹、水を用いて優良な酵母を培養したもので、醪仕込みに入る前にあらかじめ酵母を培養して大量に増殖させます。酒母は「酛(もと)」ともいわれ、文字通り「酒のもと」をつくる大切な工程です。日本酒「楯野川」の酒母は全て速醸酛なので13日間で出来あがります。酒母造りの流れや特にこだわっている点について、蔵人にインタビューしました。

Q1: 酒母造りで工夫していることは何ですか?

A2: 麹造りの各パートに分けて説明していきたいと思います。

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1日目: 前日に準備した水(12℃)の中に乳酸と麹を入れ、酵母を加えたものを「水麹」といいます。麹を加えた時点での品温は13℃を目標にしています。水麹に蒸米を入れていきます。ここでの目標温度が18℃なので、18℃になるように放冷してからタンクに入れていくのですが、蒸米が水分を吸って重くなるのと品温を均一にするために手でかき混ぜていきます。これを「手櫂」といいます。ここまでを「酛立て」と呼んでいます。酛立てから約3時間たったら、育成器を酒母醪の中に設置します。その中に溜まった酵素液を2時間おきくらいにすくって上からかけていきます。上からかけることで全体に浸透させることができます。

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2日目: 朝に育成器を取り外します。この日は後なにもしません。これを「打セ」といいます。ここでなるべく品温を下げて酵母の働きを抑えるのを目的としています。

3日目~5日目: ダキ樽を用いての加温操作を行います。ここでは「糖化」を主な目的としていて、麹の時間帯としています。酵素液により糖化されたブドウ糖は酵母のエサとなります。

6~9日目: アンカや電球を用いての加温操作を行います。ここではアルコール発酵を主な目的としていて、酵母の時間帯としています。ここでは品温をキープするように電球などで調整します。この頃から酵母がブドウ糖を食べてアルコールを排出します。

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10日目: 分析結果を見て加温操作をやめます。あとはマットやふたを取り品温を徐々に下げていきます。これを「分け」といいます。

11~12日目:: 特になにもしません。仕込みタンクに行ったときに酵母が元気で働けるように品温を下げ酵母を休ませてあげます。

13日目: 速醸酛なので13日目で完成です。酛場の小さい酛桶から仕込み蔵の大きな仕込みタンクへと移動します。ほとんどをポンプで移動させますが、40%や18%精米などといった高精白の酒米はすべて手作業で枝桶へと移動させます。