蔵元メッセージ
契約農家さんとの歩み
米、それは、純米大吟醸における唯一の原材料です。
しかし、米の仕入れは全て酒造組合や農協・全農、業者任せというのが一般的で、令和時代になった現在でも、その流れは酒造業界において主流であると言わざるを得ません。
今から15年ほど前、私は、その習慣や常識に対して、ふと疑問を感じました。
私「原料である米を自前で調達できないのはおかしい。」
私「酒造業の首根っこを抑えられている状態ではないか。」
私「全部外部に頼りっきり。酒米を作っている人の顔も知らない。」
外部「2年後の使用数量を早く提出してください。提出した数量は必ず購入してください。」
外部「使用数量を事前に提出して頂いていましたが、諸事情で少ない数量での供給になりました。」
このようなことを考え、または外部の方とやりとりしていく中で、「もうこうなったら、自社主体で酒米を確保していこう。同じリスクを取るんだったら、自己責任でやったほうが何倍もいい」と思い立ち、半ば見切り発車で契約栽培をスタートさせました。当時は、まだ契約栽培等を取り組んでいる蔵元が少なかった時代です。10名の地元の農家さんに直接依頼し、出羽燦々と美山錦を合わせて作付面積13町でのスタートでした。
それから歳月が流れ、2020年の栽培契約農家さんは23名にまで増え、作付面積も70町を超えるまでになりました。2020年からは、山田錦についても、全量契約栽培に切り替える方針となりました。
ここまで農家さんと二人三脚で来たわけですが、いろいろな課題や困難がありました。例えばですが、外部のA団体から契約栽培に対して圧力をかけられることや横槍を入れられることも多々ありました。その度に、農業関係のしがらみや利権といった古い体質に辟易としながらも、何とか民間企業でも、新しいスタイル、つまり農家さんと蔵元がwin-winの関係なるような形が実現できないかという考えを持ちながら、農業や酒造業の現状に少しでも風穴を開けたいという気持ちで取り組んで参りました。
契約作付面積70町を超えるまでに来たのは、契約農家さんをはじめとした関係者の皆様のおかげだと感じております。改めて皆様には深く感謝する次第であります。今後は、更に農家さんのお役に立てるように、高品質な酒米が継続的に産出されるように、そして、庄内地方が酒米の一大産地と言われるように、取り組んでいく所存です。
契約農家さんとの1年間の流れ
7月 | 圃場視察と勉強会、情報交換会(懇親会)、契約金の支払い |
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8月 | 次年度の作付面積および栽培品種の選定と契約 |
9・10月 | 契約酒米の収穫、楯の川酒造へ納品 |
10月 | 等級検査(検査後1週間以内に本精算) |
12月 | 勉強会・懇親会 |
全量特別栽培米以上を目指す
これまでの慣行栽培よりも、より高品質で安全な酒米を追及しようということで、2017年の作付けから、出羽燦々と美山錦の契約栽培においては、特別栽培米以上の酒米を生産しております。特別栽培とは、慣行栽培と比較して農薬や化学肥料の使用割合を50%以下に抑えた栽培方法で、その栽培条件等は都道府県単位で決められております。
当初、蔵元と契約農家さんとの間で話合いの場を何度も設け、特別栽培米への転換を根気強く依頼しましたが、農家さんにとっては、栽培履歴の提出や収量減といった負担が増えることから、理解して頂けない方も存在し、10年以上酒米の栽培をお願いしていた方が、酒米の生産自体を辞めるという判断をされた方も数名おりました。
その後、2017年から3年目を迎え、特別栽培については理解を頂ける農家さんだけが残ることとなりました。
また、特別栽培米の他に有機栽培を希望する方もおられ、2名の農家さんには有機栽培で出羽燦々を育てて頂いております。
市販の日本酒のラベル表示を見ますと、酒米の品種や産地などは結構大きく記載され、それをPRすることに工夫を凝らしている蔵元が多くありますが、酒米の栽培方法に対してスポットライトが当たることは、現状、ほぼ無いに等しいのではないかと感じております。
それは、日本酒の原料米は何割も精米をするから、特別栽培や有機栽培といったものは必要がないと考えている人が多いからか、または、元から日本の農産物が信頼されていて安全性が十分に担保されているからでしょうか。
しかし、楯野川としては、米と米麹、麹菌と酵母、そして水から造る、「限りなく純粋に近い日本酒」を追及していきたいとの思いから、全量契約栽培米による醸造、そして全量特別栽培米以上の栽培を目指し、今後も原料米の栽培方法にこだわっていきたいと考えております。
2019年作付けでの契約栽培の状況
- 特別栽培米 出羽燦々
- 特別栽培米 美山錦
- 有機栽培 出羽燦々
- 有機栽培 亀の尾
出羽燦々・美山錦・亀の尾については、全量契約栽培による特別栽培米以上(有機栽培も含む)となりました。
特別栽培でない酒米品種は、兵庫県山田錦と岡山県雄町となりました。県外産の酒米についても、契約農家さんに2020年から特別栽培米での作付けをして頂く計画でおります。
自家精米
楯の川酒造では1990年代から自家精米を行ってきました。それは、精米を「良い酒造りの第一歩」と捉えているからです。酒造りの重要工程の一つと考えると、自社で精米を行う他はないと考えます。
しかし、悲しいことに、精米を外部業者等に委託する蔵元が多いのが、日本酒業界の現状です。昨今、海外のお客様でも「精米歩合はどのくらい?」が共通言語となっています。精米の工程をアウトソーシングするのは、麹造りや酒母造りをアウトソーシングするのと同義ではないかと、私は考えます。原料米の種類や醸し方はこだわっているが、「精米は委託です」というのは説得力に欠けるスタイルと言わざるを得ません。
楯の川酒造では、原料米の調達から精米、その後の造り、貯蔵まで、その方法には一貫してこだわっていきたいと考えており、綺麗な酒質を求めるのであれば、尚更精米には細心の注意を払うべきと考えます。また、その蔵のスタイルや方向性に、かなりのウエイトを占める精米歩合は、非常に重要なファクターであると考えます。蔵の個性を下支えする精米の工程「自家精米」は、楯野川の屋台骨と考え、これからもこのスタイルを貫いて参ります。
ここで、楯の川酒造の精米について、少し具体的なお話をさせていただきます。
契約農家さんから購入した原料米は、楯の川酒造の敷地内で等級検査を実施し、1等2等などの等級を玄米につけます。そして、年や酒米の品種による出来具合を農家さんごとに把握し、できるだけ農家さんごとに精米を行い、麹米や掛米に振り分けて酒造りに使用します。そうすることで、洗米と吸水の際のブレを最小限に抑え、より蒸し米造り、そしてその先の良い日本酒造りに繋げることができます。
2019年9月現在、20俵張りの精米機3台を稼働させ、精米歩合50~1%の精米を行っております。1%や一桁台まで精米する独自の技術が社内に蓄積されてきており、更なる高付加価値日本酒の市場拡大に期待を寄せております。
原料米搬入からの蒸米までの流れ
- 契約農家さんからの搬入
- 蔵内での等級検査
- 農家さんごとに酒米を分けて自家精米
- 洗米・吸水
- 蒸米